研究成果Research Highlights

東京大学 塚谷 裕一

  • プレスリリース

植物の形づくりを促すアミノ酸代謝を発見

著者:Kensuke Kawade, Gorou Horiguchi, Yuu Hirose, Akira Oikawa, Masami Yokota Hirai, Kazuki Saito, Tomomichi Fujita, Hirokazu Tsukaya

タイトル:Metabolic control of gametophore shoot formation through arginine in the moss Physcomitrium patens

雑誌名:Cell Reports(セル・リポーツ)

掲載日:2020年9月8日(11:00 am ET)

URL:https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(20)31116-5?dgcid=raven_jbs_etoc_email

 

コケ植物の一種であるヒメツリガネゴケは、平面的に成長する糸状の原糸体と、立体的に成長するシュートを環境に応じて作り分けます。平面的な成長から立体的な成長へと戦略を変化させたなら、それに応じて代謝状態を調える必要があるはずです。そこで研究グループは、体内の代謝状態を成長戦略に合わせて変化させる仕組みを明らかにしようと考えました。

 

塚谷班代

表の塚谷裕一教授(東京大学大学院理学系研究科)の共同研究グループは、ヒメツリガネゴケにおいてANGUSTIFOLIA3 (AN3)遺伝子が異常になると、シュートの成長が著しく悪くなることを見つけました。この成長不全の理由を探るため体内の代謝状態を調べたところ、アミノ酸の一種であるアルギニンが過剰に溜まっていることが分かりました。そこで、ヒメツリガネゴケにアルギニンを投与して育てると、AN3遺伝子が異常になった場合と同じように、シュートの成長が悪くなることが確認されました。またAN3遺伝子には、細胞の代謝や成長に関わる遺伝子を活性化する役割があることも明らかにしました。これらの結果から、研究グループは、AN3遺伝子を介したアルギニン代謝の調節がシュートの成長を促していると結論付けました。

 

アミノ酸の代謝は生命を維持する基本的な機能がよく知られています。しかし本研究から、アルギニン代謝にはシュートの成長を促す特別な機能もあることが分かりました。今後、シュートの成長に応じてアルギニンがさらにどのような代謝物へと変換されているのか明らかにできれば、植物が陸上で繁栄するための鍵であった代謝物が見つかるかも知れません。そうすると、生命維持のみならず環境に応じて柔軟に対応するアミノ酸代謝の未知なる機能を探索する新しい研究分野が拓かれると期待されます。

 

 

成長戦略の切り換えに応じて代謝状態を調える仕組み

成長戦略の切り換えに応じて代謝状態を調える仕組み

 

 

詳細は生命創成探究センターのウェブページをご覧下さい。

URL:https://www.excells.orion.ac.jp/pr/20200909pr01.html