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ヒメツリガネゴケの葉が内側から外側へ向かって展開する仕組みの発見 〜ヒメツリガネゴケのクチクラは、体を守るだけでなく細胞の形作りにも必要だった〜

著者:Liechi Zhang, Yuko Sasaki-Sekimoto, Ken Kosetsu, Tsuyoshi Aoyama, Takashi Murata, Yukiko Kabeya, Yoshikatsu Sato, Shizuka Koshimizu, Mie Shimojima, Hiroyuki Ohta, Mitsuyasu Hasebe, and Masaki Ishikawa

タイトル:An ABCB transporter regulates anisotropic cell expansion via cuticle deposition in the moss Physcomitrium patens
掲載誌:New Phytologist

掲載日:2023年10月22日

URL:https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nph.19337

 

約4億7千年前、淡水域から陸地に進出した植物は、乾燥、細菌感染、強い光など、陸上環境の厳しい条件に直面しました。これらの過酷な環境下で植物は、主にワックスやクチンからできているクチクラと呼ばれる疎水性の膜を発達させてきました。このクチクラは、植物の表面を覆い、体内部の水分の蒸発を抑制し、強い太陽光や細菌感染などから体を守る役割を果たしてきました。一方、植物のクチクラは、伸び縮みにより一定以上の力がかかると破損するため、組織や器官の成長を制限する一因ともなります。昆虫にも、主にキチンからできている硬いクチクラが存在し、体の表面を守っていますが、脱皮により最外にあるクチクラを脱ぎ捨て成長することができます。植物は脱皮することができないため、クチクラで覆われた組織や器官がどのように成長するのか、その仕組みはよく分かっていませんでした。石川班代表の石川雅樹助教(基礎生物学研究所)、佐藤班代表の佐藤良勝特任准教授(名古屋大学)らは、コケ植物であるヒメツリガネゴケの葉に着目しました。ヒメツリガネゴケの葉は、ほぼ一層の細胞から作られており、成長に伴い、内側から外側に向かって展開します。そこで、成長中の葉を詳細に調べたところ、葉の表側に新たにクチクラを作り出すことで葉の表側を伸長させ、結果として葉が内側から外側へ向くように成長させるという新たな仕組みを発見しました。研究チームはさらに分子レベルで解明を試み、成長中の葉に存在するPpABCB14と名付けたタンパク質が、細胞の表面にクチクラの材料を送り出すことで、その場所で新しいクチクラを作り出し、葉細胞の表側を伸ばすというメカニズムを明らかにしました。植物の葉は、光合成によりエネルギーを生産するための主要な器官です。本研究で発見したクチクラによる細胞を曲げる仕組みは、光合成の効率を向上させるとともに、葉が展開する際に太陽光の影響を受けても水分の損失を抑える陸上環境への適応メカニズムの一つと考えられます。

 

詳細は基礎生物学研究所のプレスリリースをご覧ください

https://www.nibb.ac.jp/press/2023/11/13.html