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植物の発生や器官成長に重要な膜交通タンパク質のリサイクルシステムを発見

著者:Masaru Fujimoto*, Kazuo Ebine*, Kohji Nishimura*, Nobuhiro Tsutsumi, and Takashi Ueda (*Co-first author)

タイトル:Longin R-SNARE is retrieved from the plasma membrane by ANTH domain-containing proteins in Arabidopsis

雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)

掲載日:2020年9月21日

URL:https://www.pnas.org/content/early/2020/09/22/2011152117

 

全ての生物は細胞からできており、その内側と外側は「細胞膜」で仕切られています。この細胞膜には、細胞内外の物質のやり取りや細胞外環境の感知に関わる様々なタンパク質が存在しており、細胞の恒常性維持や環境変化への応答に必須の役割を果たしています。真核生物では、細胞膜におけるタンパク質の量や配置が「膜交通」という細胞内の小胞や小管を介した物質輸送システムによって厳密に調節されています。その具体的なしくみは、生物のさまざまな体制やライフスタイルに応じて、それぞれの生物の進化の過程で独自の多様化を遂げたと考えられています。

 

上田班の上田 貴志 教授(基礎生物学研究所細胞動態部門)、海老根 一生 助教(基礎生物学研究所細胞動態部門)らの研究グループは、シロイヌナズナを用いて、植物の細胞外や細胞膜への物質輸送を担うVAMP72という膜交通タンパク質が、PICALM1という別の膜交通タンパク質のはたらきにより、細胞膜から細胞内へ回収され「リサイクル」されることを発見しました(下図)。また、PICALM1によるVAMP72の細胞膜からの回収が破綻すると、根や茎をはじめとした器官の成長に広く悪影響が生じることも判明しました。動物細胞では、VAMP72とよく似たタンパク質が植物とは全く異なる仕組みにより細胞膜から回収されています。また、PICALM1と類似のタンパク質は、陸上植物の進化の過程において劇的にその数が増加していることも分かっています。これらのこととあわせて本研究の成果は、植物の器官成長を支える基盤的なシステムの確立に、膜交通タンパク質をリサイクルする仕組みの多様化が重要な役割を果たしたことを示しています。

VAMP72がPICALM1によって細胞膜から回収される様子を示した模式図

VAMP72がPICALM1によって細胞膜から回収される様子を示した模式図

 

詳細は基礎生物学研究所のウェブページをご覧下さい。

URL:https://www.nibb.ac.jp/press/2020/09/22.html